例えばの話です。
あなたが、余命宣告されたとします。
1年後にきっかり死ぬことになる、と。
痛みも苦しみもない奇跡のような病気ですが。
1年後に死ぬことが、避けられない。
致死性の病であることは間違いない──と言う病に罹ったときに。
あなたは、誰かにこの情報を打ち明けるでしょうか。
打ち明けるとしたら、いつ、誰に、どの程度、お話するでしょう?
……と言う、例えばの話です。
痛くも痒くも苦しくもない病気なのに、1年後に死ぬ──と。
まず、実感が湧かないかもしれませんね。
病気に罹れば某かの異状あってのことでしょうに。
どこにも不調がなく。
身体のコンディションが蝕まれている気配もないのに。
医者から「1年後死ぬっす」と言われましても。
「???」となって終わるかもしれません。
しかしながら、医者が筍医者ないし藪医者でもない限りは。
当てずっぽうで言うわけもなく。
そもそも医者が余命宣告するからには。
何らかの検査(健診や人間ドックを思い浮かべるといいかもしれません)を行い。
診察室のような、あなたと医者が。
マンツーマンでいられる環境で、言われる筈なので。
まぁ、嘘ではないんだろうなぁって。
そのときは、思うかもしれません。
そして、帰り道や。
家に帰ってぼうっとし始めたときに、「あははまさかねぇ」と思うかもしれませんね。
そして、沸々と怒りが湧いてくるやもしれません。
「あんな病院に2度と行ってやるモノか」と。
そうして、そんな宣告なんてそっちのけで。
1週間、1ヶ月、3ヶ月、半年と経過していくと。
その間に、だんだんと気懸りになっていくんじゃないでしょうか。
「本当に死んでしまうとしたら……」と。
まだ、やりたいことがあったなぁとか。
できれば来年のあのライフイベントを終えてから死ねないだろうか、とか。
色々と、過ってくるかもしれません。
「それだったら命を差し出しても構わない」なんて本末転倒な願望を抱いて。
何やってんだろ、と。
自己嫌悪に陥るかもしれません。
その間にも、刻一刻と過ぎていきます。
死期をより一層意識して、塞ぎ込んでしまうかもしれません。
食欲もなくなり、顔色が悪くなり。
寝付きもいつもより悪くなってきたような……えぇ、周囲から見ても分かるくらいに悄気て見えるかもしれませんね。
噂されているように感じることもあるかもしれません。
何もかも敵になって見えるかもしれませんね。
「最近元気がないよ」と言われたときに。
少しだけ、気が立ってしまうこともあるかもしれません。
その間にも、宣告された1年が経とうとしています。
なのに、どこも痛くも痒くも苦しくもない……あぁ、明日が宣告された日か……
…………。
…………………………………なんて病気に罹ったら。
どの段階で、誰にどのように伝えるでしょうか。
それとも──誰にも伝えずに、いるでしょうか。
わたしの場合には、恐らく。
誰にも、名言しないと思うんです。
余命宣告を受けた、とも。
身体に不調はないんですけどねー、とも。
もしかしたら、上司や衛生管理者には気に掛けられているかもしれませんけども。
だって健康診断や人間ドックの受診結果については、職場にも行きますし。
……ただ、余命宣告を受けるまでひどいとは思わないでしょう。
せいぜい「要精密」と出るくらいのモノですよね、あれって。
それで、「二次健康診断へGO」と言われるくらいのモノで。
それが終わって受診結果を〝自己〟申告すればこの話は終わりなわけです。
そこまでやれば、ちょっと顔色が悪かろうと。
「まぁ仕事してくれるのなら」と放っておかれる可能性のほうが高いんじゃないかなと。
基本、職場の方々って他人ですから。
家族も血を分けているとか分けていないとかありますが──別個体であることは変わりありません。
なので、身体的に何か異状があるなら。
生きている最中に迷惑をかけることも往々にしてあるので。
家族には早い段階で打ち明け。
職場の方々にも塞ぎ込む前に話をするかと思うのですが。
如何せん、痛くも苦しくもないのですから。
誰にも言わないんだろうなと。
──その代わりと言ってはなんですが。
恐らく、死ぬ準備についてはこっそり行うと思いますよ。
口座情報について記しておくとか。
遺言状をしたためておくとか。
墓を決めておくとか。
遺す側に何か遺るようには、準備するんじゃなかろうかと。
余命宣告から1年が経過してパッタリと倒れたときに。
なんの準備もしていなかった、では迷惑千万ですし。
死んだあとくらい、禍根と言う禍根については一掃しておきたい。
──とは、利己主義者であるわたしですら思うくらいなのです。
……そう、利己主義者ですよわたしは。
なのでもし病気に痛み苦しみなんてモノがあるならば。
さっさと、話してしまうんじゃないでしょうか。
そのほうが楽ですからね──相手のことなんて慮らないと思います。
……何も検討していなければ、の話です。
なので、こう言うのは。
できれば、そう言った病に罹患する前に。
考えておくくらいが、ちょうどいいのです。