※書くと長くなるのですが。
いいでしょうか。
5年ほど前に。
遊びに来ていた友人が、倒れたんですよ。
もともと、癲癇持ちだったので。
今回のもそうだろうなぁと見ていたのですが。
なかなか、収まらなかったんです。
秒針が10周しても終わらないので。
最初、「長いなー」と思って。
ぼけーっと眺めていたのですが。
泡を噴き始めたのを見て。
「あーこれは複合痙攣か、死ぬなぁ」と思ったので。
119番にかけたんです。
で、救急車が来たのでそのまま同伴したわけですが。
あのときの救急救命士の穿るような目付きが、今でも忘れられないですね。
葉蔵を監視するヒラメみたいな目をしやがって、と。
毒を盛ってないのは奴を見たら分かるだろ、とも思いましたが。
若かったし、現場経験が浅かったから分からなかったのかもしれません。
で、病院に着いたらどうなったかと言うと。
「ありがとうございました、お帰りください」と言われるわけです。
「なんで」と訊くと、「身内じゃないからです」と。
なので、一緒にいられてもと。
はぁ……入退院の手続きは誰がするんですか、と訊くと。
「ご家族はいないのですか」なんて訊き返しやがったので。
「いないですよ、天涯孤独の身なんですから」なんて返すと。
「保護してくれる人ならいるでしょう、連絡先はご存知ですか」なんて訊くモノだから。
「そいつの持ち物にあるんじゃないでしょうか、探しましょうか?」と言ったら。
「いいです、こちらでやっておきます」と言われて帰らされちゃって。
なんなんだよおい、と思いました。
融通利かねぇ奴らだ、と。
あいつがどれだけ人様に物色されるの嫌がるか知らねぇだろ、と。
その白衣を真っ赤にしたろかてめぇ、とずっと悶々としながらタクシーを拾ったなぁと。
で、アパートに戻ってからは、うまい棒と強炭酸水を浴びるほど飲み食いして。
そのまま不貞寝してやりましたよ。
あんな病院、破産しちまえ。
なんてことも思った記憶があります。
ですが、あんな奴らのやったことも分からないでもなかったんです。
これは不便だなぁって思いました。
なので、退院した友人に渡したんです──婚姻届を。
で、「結婚しよ、書け」と言いました。
あの、きょとんとした顔が忘れられないですね。
だって、あっちはわたしのことを好きではないのですから。
そして、わたしも友人のことが好きではありませんでした。
同居とか以ての外です、一緒に会って雑談くらいならいいですが。
なので、こう続けました。
「だって、不便じゃん」と。
するとあいつ、なんて言ったと思います?
「だね、減るものじゃなし」ですよ。
失礼な、と思いますよね。
減るし、時間もインクもなくなるわと思いましたよ。
だから、言ってやりました。
「さっさと書け、阿呆」と、ケタケタ笑いながら。
そう、これがわたしの──わたしたちの、ひとつの形なのでした。
色んなあり方があると思います。
わたしはあいつと結婚しましたが。
いま現在も愛していませんし、一緒に住んでもいません。
なんなら、会うのも月に1回あるかないかです。
しかも、会ってから分かれるとホッとします。
互いに独りでいるのが好きなのです、なんじゃこりゃって自分でも思います。
向こうも同じじゃないでしょうか。
ただ──私たちは。
契約を、したんです。
何かあったらよろしく、と。
ただ、それだけ。
※以上の話は全てテキトーである